深海から引き上げた魚は、なぜ目が飛び出すことがあるの?
お子さんと保護者の方へ。深海のふしぎを、いっしょに確かめましょう。
いまのことば
深海から引き上げた魚は、なぜ目が飛び出すことがあるの?

重要ポイント
- 深海での姿との違い:目が飛び出したり内臓が押し出されたりしている状態は、深海で生活しているときの姿ではなく、海面へ急に引き上げられたことによる身体の変化です。
- 急激な減圧と気体の膨張:深い海から海面近くへ急に浮上すると、魚を取り囲む周囲の水圧が急激に下がります。これにより、体内にある気体が膨張し、組織の柔らかい目や口などを内側から押し出す現象が生じると説明されています。体液中の気体経路はJAMSTEC資料で推定されており、浮き袋や体腔内の空気の膨張はNOAA資料でsnapper(フエダイ類)やgrouper(ハタ類)などの対象魚について説明されています。
- 全魚種一律ではない反応:すべての深海魚が同じように目を飛び出させるわけではありません。魚種によって体の骨格や筋肉の構造が異なり、また浮き袋を持たない種類の深海魚も存在します。
- 生きた状態での捕獲と展示:急激な減圧や温度変化の影響を受けるため、深海生物を生きたまま展示することには多くの困難があります。JAMSTECの解説(2020年時点)でも、低温を保つ工夫やゆっくり引き上げる工夫などが紹介され、生きて捕まえられた種類が展示されていると述べられています。
- 安全な学び方:炭酸飲料のボトルを激しく振ったり急開栓したりするような危険な方法は避け、紙の上に深海と海面を描いて水圧の変化と気体の動きを矢印で視覚化する安全な作図ワークで学びます。
1. 問いの提起:深海魚の写真を見て感じる疑問
子ども向けの科学図鑑やテレビの自然番組などで、深海から獲れたばかりの魚の写真を見たとき、「なぜこの魚は目がこんなに飛び出しているのだろう」「口から何か赤い風船のようなものが出ているのはなぜだろう」と疑問を持つことがあります。もともと深海には目が飛び出した魚ばかりが泳いでいるのだと受け止めてしまうこともあります。
しかし、深海の物理環境と生き物の体の仕組みを順に見ていくと、そこには目に見えない「水圧」という力が関わっていることが分かります。魚の身に何が起きたのかを順を追って考えることは、海の中の自然現象や物理の基本原理を学ぶ格好の題材となります。
2. 深海と海面の環境差:水圧の急激な低下
深海とは、一般に太陽の光がほとんど届かなくなる水深200メートルより深い海域を指します。水深が深くなればなるほど、その上にある水の重さがかかるため、水圧は非常に高くなります。同時に、深海の水温は海面に比べて低くなります。
深海に暮らす魚たちは、その高い水圧の環境で生活しています。体内の圧力と外側の水圧がバランスを取っているため、深海にいる間は魚の体が押しつぶされることもなく、また目が飛び出すこともありません。
ところが、人間が釣り糸を巻き上げたり、調査用の網で船の上まで引き揚げたりすると、周囲の環境が大きく変わります。魚は何百メートルもの深海から海面へと急に浮上させられます。このとき、魚のまわりを取り囲んでいた水圧が急激に下がり、ほぼ1気圧の海面大気へと変化します。
3. 目が押し出される仕組み:気体の膨張と柔らかい組織
周囲の圧力が急激に下がると、魚の体内では何が起きるのでしょうか。
JAMSTEC高知コア研究所の公開質問回答資料では、急激な浮上に伴う水圧や温度の変化によって、魚の体内に溶け込んでいた気体(血液や体液中の気体)が気泡となって膨張し、内側から圧力がかかることで、体の組織の中でも比較的柔らかい「目」や「口」などの部分が外側へと押されると考えられています。この経路について、資料では「考えられる」「おそらく」といった慎重な表現で説明されています。
また、NOAAの資料においても、snapper(フエダイ類)やgrouper(ハタ類)などの魚が深い場所から釣り上げられた際に起きる「圧外傷(barotrauma:バロトラウマ)」について説明されています。魚の体内にある気体を含む器官(浮き袋やその他の体腔)の空気が、周囲の減圧に伴って急激に膨らみ、胃袋が口から押し出されたり、眼球が突出したりする現象が報告されています。
体内にある気体が外からの圧力を失ったことで大きく膨らみ、外側へ突出するという物理的な現象が基本にあります。山の上に密封されたお菓子の袋を持っていくと、気圧が下がるにつれて袋が膨らむ現象と原理的に通じるものがあります。
4. すべての深海魚に当てはまるわけではない:魚種による体の違い
科学的に注意すべき点として、深海魚を引き上げたからといって、すべての魚で目が飛び出すわけではありません。
魚の種類によって、体のつくりは多様です。深海魚の中には、浮き袋(鰾:ひょう)を持つ種類もいれば、浮き袋を持たない種類も存在します。浮き袋を持たない魚では、気体の膨張による浮き袋の破裂や内臓の突出といった現象は起きにくくなります。
また、骨格の硬さや皮膚・筋肉の性質、体内の状態なども魚種によって異なります。JAMSTECの解説でも、体内の具体的な経路については慎重に説明されており、特定の1つの機序だけをすべての深海魚の共通ルールとして断定することはしていません。魚ごとの体の構造に応じた多様な反応があることを理解することが大切です。
5. 水族館での展示と捕獲の工夫
水族館に行くと、深海コーナーで元気に泳いでいる深海魚を見かけることがあります。この姿を見て、「どうして水族館の深海魚は目が飛び出していないのだろう」と疑問に思うことがあります。
JAMSTECの資料には、深海魚の飼育について次のような記述があります。
「深海魚は、いろんな種類がいて、何とか生きて捕まえられたものだけ、飼育して展示しているんだよ。」
深海魚を生きたまま海面まで運ぶ工夫として、急激に引き上げるのではなく、時間をかけてゆっくりと引き上げたり、水温を低く保ったりするなどの試みが紹介されています。また、水圧を戻す試みなども行われてきました。JAMSTECの解説でも、生きて捕まえるための慎重な採集や工夫の例が紹介されています。
6. 親子で深める観察と対話のヒント
このテーマを家庭で学ぶ際、炭酸飲料のペットボトルを振って急に開けるような実験は中身が噴き出して目に入るなどの危険を伴うため避けてください。
安全に科学的な仕組みを考える方法として、紙と色ペンを使った作図ワークがあります。
- 用意するもの:白い紙1枚、青色と赤色のペン。
- 手順1:紙の下半分を「深い海(高水圧)」とし、上半分を「海面(低水圧)」とします。
- 手順2:深い海の中に魚の絵を描き、魚のまわりから内側に向かってたくさんの矢印(外からの水圧)を描きます。
- 手順3:魚が海面へと上がっていく上向きの矢印を描きます。
- 手順4:海面に着いた魚を描き、まわりの矢印(水圧)を小さくまばらにします。すると魚の内側にあった気体が膨らみ、目や口の方向へ矢印が向く様子を描きます。
この作図は模式的な表現であり、魚種ごとの体格や内部経路を厳密に検証するものではありませんが、目に見えない圧力のバランスを視覚的に表現する助けになります。「深いところでは強く押されていたけれど、浅いところでは押す力が弱くなったから、中から膨らんだんだね」と言葉で表現してみる活動として活用できます。
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よくある質問(FAQ)
Q1: 深海魚は、深海で泳いでいるときから目が飛び出しているのですか?
A1: いいえ、深海にいるときは飛び出していません。深海魚は周囲の水圧と釣り合って生活しています。海面へと急激に引き上げられることで周囲の水圧が下がり、体内の気体が膨張して目が外側に押し出されることがあります。写真などで見る飛び出した目は、引き上げられた後に生じた変化です。
Q2: 深海から魚を引き上げたら、どんな深海魚でも絶対に目が飛び出しますか?
A2: すべての魚で目が飛び出すわけではありません。魚の種類によって骨格や筋肉の構造が異なりますし、浮き袋を持たない種類の深海魚もいます。体のつくりによって減圧に対する反応は多様であり、すべての深海魚が一律に同じ変化を起こすわけではありません。
Q3: 水族館の深海魚は、なぜ目が飛び出さずに泳いでいるのですか?
A3: 2020年のJAMSTECの紹介例では、「何とか生きて捕まえられたものだけ、飼育して展示しているんだよ」と説明されており、時間をかけてゆっくり引き上げたり、水温を低く保ったりするなどの工夫が紹介されています。
Q4: 船釣りで深場の魚を釣ったとき、口から風船のようなものが出てくることがあるのはなぜですか?
A4: 水圧が下がることで体内の浮き袋などの気体が膨張し、胃が口から押し出される圧外傷(バロトラウマ)の症状です。NOAAの解説でも、ハタやフエダイなどの魚を引き上げた際にこうした現象が起こることが紹介されています。
Q5: 炭酸飲料を振って開ければ、深海魚の減圧と同じ実験になりますか?
A5: 炭酸飲料を振って急に開ける行為は、液体が噴き出して周囲を汚したり怪我をしたりする危険があるため行わないでください。紙の上に深海と海面を描いて水圧と気体の動きを考える作図ワークを行うことで、安全に原理を理解することができます。 ---
深海釣りや調査などで深い海から釣り上げられたり網で引き上げられたりした魚を見たとき、目が外側に飛び出していたり、口から胃袋のようなものが押し出されていたりする姿を目にすることがあります。本稿では、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)高知コア研究所の公開解説や米国海洋大気庁(NOAA)の資料をもとに、深海から海面へと急激に引き上げられる過程で生じる「水圧の低下」と「体内の気体の膨張」という物理的・生物学的な仕組みを解説します。深海で生活しているときの姿と減圧後の姿を区別し、魚種による体の構造の違いや浮き袋の有無による反応の多様性について理解を深めます。
出典・公的資料:お知らせ|トピックス|高知コア研究所 - 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)、Catch and Release \| Office of National Marine Sanctuaries - NOAA
本文は株式会社士心が作成したものです。
