七十二
百 人 一 首 ・ 七 十 二 番 祐子内親王家紀伊
音に聞く 高師の濱の あだ浪は
かけじや袖の ぬれもこそすれおとにきく たかしのはまの あだなみは
かけじやそでの ぬれもこそすれ
いまのことば
噂に高い高師の浜の、いたずらな波は
心にかけますまい。
かかれば袖が濡れて、後悔することになりますから。
ことばの景色
これも歌合での応酬の歌です。相手から「波のように押し寄せます」という歌が来た。それに「その波はかけませんよ」と返した。相手のたとえをそのまま使って断る——和歌の受け答えの型です。
「あだ波」はむだに立つ波、移り気な心のたとえ。「かけじ」は「(波を)かける」と「(心を)かける」の両方。水の動きと心の動きが、同じ動詞で結ばれている。
作者の祐子内親王家紀伊は女房三十六歌仙のひとり。後朱雀天皇の皇女・祐子内親王に仕えた女房です。六十五番の相模と同じく、仕えた相手の名がそのまま呼び名になっています。
考えてみよう
- 問一相手のたとえを使って言い返す練習をしてみましょう。
- 問二波の動きを見て、気持ちのことばに置きかえてみましょう。
- 問三「かける」を使った言い方を、五つ集めてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——
高師の浜は、いまの大阪府高石市のあたりとされます。
十九番の
難波潟、
二十番の
難波、
八十八番の
難波江——
大阪湾ぞいは、百人一首でいちばんよく詠まれた海辺の一つです。