六十五
百 人 一 首 ・ 六 十 五 番 相模
恨み侘び ほさぬ袖だに あるものを
戀に朽ちなむ 名こそ惜しけれうらみわび ほさぬそでだに あるものを
こひにくちなむ なこそをしけれ
いまのことば
恨み疲れて、涙で乾く間もない袖さえ辛いのに、
そのうえ恋のせいで
評判まで朽ちてしまうのが、惜しくてなりません。
ことばの景色
「袖だに」の「だに」が効いています——「〜さえ(辛いのに)」という積み重ね。涙で袖が乾かないだけでも十分なのに、そのうえ噂まで立ってしまう——二つ重ねて嘆いている。
「朽ちなむ名」——布が朽ちるように、評判も朽ちる。袖の話から名の話へ、同じ動詞でつないでいます。五十五番の「名こそ流れて」と同じ技です。
作者の「相模」は平安中期の女性歌人。十九番の伊勢、三十八番の右近と同じく、国名や役職名で呼ばれた人です。本名が伝わらないまま、歌だけが千年残りました。
考えてみよう
- 問一「〜さえ」を使って、気持ちを重ねる文を作ってみましょう。
- 問二評判を気にするのは、なぜでしょう。考えてみましょう。
- 問三布が傷むように、と形のないものをたとえてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——平安の女性歌人の多くは、本名が分かっていません。清少納言も紫式部も、通称です。それでも歌と作品は残った。名前より長く生きるものがある、ということでもあります。