七十三
百 人 一 首 ・ 七 十 三 番 権中納言匡房
高砂の 尾の上の桜 咲きにけり
外山の霞 立たずもあらなむたかさごの をのへのさくら さきにけり
とやまのかすみ たたずもあらなむ
いまのことば
高い山の峰の桜が咲いた。
どうか手前の山の霞よ、
立たないでいてほしい。
ことばの景色
遠くの桜を見たいから、手前の霞に「立つな」と頼んでいる——願いの向け先が面白い歌です。十二番が風に命令した歌でした。自然に注文をつけるのは、和歌の得意技です。
「高砂」はここでは地名ではなく「高い山」の意味と読まれます。三十四番の「高砂の松」は播磨の地名でした。同じことばが、歌によって違う意味になる——並べて読むと、そういうことにも気づけます。
作者の大江匡房は儒学者としても名高い人で、江帥と号しました。白河朝の「三房」のひとりに数えられます。学問の人が詠んだ、素直な花の歌です。
考えてみよう
- 問一遠くのものをよく見るために、何が邪魔になりますか。
- 問二自然にお願いをする形で、短い文を作ってみましょう。
- 問三霞と霧の違いを調べてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——
霞は春、霧は秋——和歌では季節で呼び分けます。
同じ
現象でも、
季節によって
名前が
変わる。
春の七十二候と
同じで、
名前を分けることが、観察の細かさになります。