六十八
百 人 一 首 ・ 六 十 八 番 三条院
心にも あらで憂世に ながらへば
戀しかるべき 夜半の月かなこゝろにも あらでうきよに ながらへば
こひしかるべき よはのつきかな
いまのことば
心ならずも、この世に長らえることになったなら——
きっと恋しく思い出すのだろう、
今夜のこの月を。
ことばの景色
いまを、いつか懐かしむ日から見ている——時間の向きが独特な一首です。辛いいまを、未来の自分が恋しがるだろうと予想する。苦しみの最中で、それを思い出に変える準備をしている。
「憂世」はつらい世の中。作者の三条院は、眼の病などに苦しみ、在位五年ほどで位を退いた天皇です。その人が「月を恋しく思うだろう」と書いた。見えにくくなっていく目で見た月、と読むと重みが変わります。
百人一首には、天皇や院と呼ばれる方の歌が八首入っています(一・二・十三・十五・六十八・七十七・九十九・百番)。一番の天智天皇に始まり、百番の順徳院で終わる——一番と百番が天皇・上皇の歌であることは、定家の組み立て方を考えるうえで大きな手がかりです。
考えてみよう
- 問一辛かったことが、あとから懐かしくなった経験はありますか。
- 問二いまのことを「未来から見る」書き方で、一行書いてみましょう。
- 問三百人一首の天皇の歌を探して、並べてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——
三条院は第六十七代の天皇。
十三番の
陽成院、
十五番の
光孝天皇など、
百人一首は歴代の天皇を時代順に並べてもいます。
歌集でありながら、
小さな
歴史の
本でもあります。