六十九
百 人 一 首 ・ 六 十 九 番 能因法師
嵐ふく 三室の山の もみぢ葉は
龍田の川の 錦なりけりあらしふく みむろのやまの もみぢばは
たつたのかはの にしきなりけり
いまのことば
嵐が吹きつける三室の山の紅葉が、
散って流れ——
龍田川は、錦の織物のようになった。
ことばの景色
山の紅葉が川の錦になる、という移り変わりを一首に収めています。上の句は山、下の句は川。風が二つの場所をつないでいる——原因と結果が見える作りです。
龍田川は十七番「ちはやぶる」でも詠まれた紅葉の名所。業平は「水をくくり染めにした」、能因は「錦になった」——同じ川を、同じ染め物のたとえで詠んでいる。十四番のしのぶもぢずり、地理の間・鳴海の絞り染めともつながります。
作者の能因法師は俗名を橘永愷といい、諸国を旅して歌枕を訪ね歩いた歌人として知られます。歌に詠まれた土地を、実際に自分の足で歩いた人です。
考えてみよう
- 問一紅葉が川に浮かんでいるところを探して、写真に撮ってみましょう。
- 問二十七番と読み比べて、同じ川の二つの描き方を並べてみましょう。
- 問三織物のたとえを使って、風景を一行書いてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——歌枕は、歌に詠まれることで有名になった土地のこと。龍田川、須磨、末の松山、天の橋立——百人一首を地図に落とすと、日本列島が浮かび上がります。