六十七
百 人 一 首 ・ 六 十 七 番 周防内侍
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
かひなく立たむ 名こそ惜しけれはるのよの ゆめばかりなる たまくらに
かひなくたたむ なこそをしけれ
いまのことば
春の夜の、はかない夢ほどの手枕のせいで——
つまらない噂が立ってしまうのは、
惜しいことです。
ことばの景色
これは宴の席での、軽いやりとりの歌です。誰かが「腕を枕にどうぞ」と差し出した。それに「そんなことをしたら噂になってしまいます」と返した。断りながら、場を盛り上げている。
「春の夜の夢ばかりなる」——はかないものを二つ重ねて、「ほんの少しの間」を表した。春の夜は短い。夢はもっと短い。三十六番の「夏の夜は」も、夜の短さの歌でした。
作者の周防内侍は女房三十六歌仙のひとり。本名は平仲子と伝わります。宮中の場で即座に返せることが、女房にとっての腕前でした。
考えてみよう
- 問一断りながら相手を立てる言い方を、考えてみましょう。
- 問二はかないものを二つ重ねて、短さを表してみましょう。
- 問三三十六番と読み比べて、夜の短さの表し方を並べてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——
宮中では、即興の歌のやりとりが日常でした。
六十番の
小式部内侍、
六十一番の
伊勢大輔、そしてこの
六十七番。
とっさの一首が、そのまま千年残りました。