一
百 人 一 首 ・ 一 番 天 智 天 皇
秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ
わが衣手は 露にぬれつつあきのたの かりほのいほの とまをあらみ
わがころもでは つゆにぬれつつ
いまのことば
秋の田んぼの番小屋は、屋根の編み目があらいので、
私の袖は、夜露にぬれ続けている。
ことばの景色
百首の先頭に置かれたのは、天皇の歌。それなのに、詠まれているのは宮殿ではなく、秋の田んぼの粗末な番小屋です。収穫前の稲を鳥やけものから守る夜番の、袖が露にぬれていく——。
天皇が農民の夜仕事の身になってうたった歌、として長く愛されてきました。いちばん偉い人が、いちばん地味な労働の歌から始まる。百人一首という歌集の顔として、これ以上ない選び方です。
「苫をあらみ」の「〜を…み」は「〜が…なので」という古語の型。ひとつ覚えると、ほかの歌でも使えます。
考えてみよう
- 問一「衣手(ころもで)=袖」。袖がぬれる情景から、どんな気持ちが伝わってきますか。
- 問二働く人の身になってうたう——現代の歌(曲)にも、そういうものはありますか。
- 問三百首の最初にこの歌を置いた選者の気持ちを、想像してみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して読んでから考えると、また違って見えてきます。
豆知識——百人一首を選んだのは鎌倉時代の歌人・藤原定家。京都・小倉山の山荘で選んだので「小倉百人一首」と呼ばれます。かるたになったのは江戸時代——寺子屋の時代に、遊びながら覚える古典になりました。