六十四
百 人 一 首 ・ 六 十 四 番 権中納言定頼
朝ぼらけ 宇治の川霧 絶えだえに
あらはれ渡る 瀬々の網代木あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに
あらはれわたる せぜのあじろぎ
いまのことば
夜がほのぼの明けるころ、宇治川の霧が
とぎれとぎれに晴れてきて——
瀬々の網代木が、次々と姿を現してくる。
ことばの景色
この歌は、時間が動いています。最初は霧で何も見えない。それが少しずつ切れて、網代木が上流から下流へ、順に現れてくる。「あらはれ渡る」の「渡る」が、その動きを担っています。
網代木は、川に杭を並べて竹や木を編み、魚を捕る仕掛けのこと。冬の宇治川の風物詩でした。三十二番の「しがらみ」も川の仕掛けでした。和歌の風景には、人の仕事の道具がよく出てきます。
作者の藤原定頼は、五十五番大納言公任の長男。中古三十六歌仙のひとりです。そしてこの人が、六十番小式部内侍をからかった相手だと伝わります。百人一首の札どうしは、思いがけないところでつながっています。
考えてみよう
- 問一霧が晴れていくところを観察して、見える順番を書いてみましょう。
- 問二川で魚を捕る方法を、三つ調べてみましょう。
- 問三三十一番も「朝ぼらけ」で始まります。読み比べてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——宇治は平安の貴族の別荘地でした。平等院鳳凰堂があるのも宇治。都から近く、けれど都ではない——その距離感が、宇治を歌の土地にしました。