五十四
百 人 一 首 ・ 五 十 四 番 儀同三司母
忘れじの 行末までは 難ければ
今日を限りの 命ともがなわすれじの ゆくすゑまでは かたければ
けふをかぎりの いのちともがな
いまのことば
「忘れまい」というお言葉が、先々まで続くとは
思いにくいものですから——
いっそ今日を最後の日として、命が尽きてほしい。
ことばの景色
幸せの絶頂で「いま死にたい」と言う——激しい歌です。けれど理屈は通っています。変わってしまう未来を見たくないから、変わる前で止めたい。
『新古今和歌集』の前書きは「中関白通ひそめ侍りけるころ」——藤原道隆が通い始めたころの歌です。つまり関係が始まったばかりの時期。いちばん幸せなときに、いちばん先の不安を見ていた。
作者の儀同三司母は高階貴子。女房三十六歌仙のひとりで、高内侍とも呼ばれました。その娘が中宮定子——清少納言が仕えた方です。六十二番の清少納言と、同じ部屋の空気を知っていた人。
考えてみよう
- 問一いちばん楽しいときに不安になったことはありますか。
- 問二約束は、どうすれば続くと思いますか。
- 問三四十二番の「契りきな」と読み比べてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——「
儀同三司」は、
息子の
藤原伊周が
名乗った
称号です。
百人一首の女性の多くは、父・夫・子の役職名で呼ばれています。
十九番の
伊勢、
三十八番の
右近も
同じ。
名前そのものが、時代を語っています。