五十三
百 人 一 首 ・ 五 十 三 番 右大将道綱母
嘆きつつ 獨りぬる夜の 明くるまは
いかに久しき ものとかは知るなげきつつ ひとりぬるよの あくるまは
いかにひさしき ものとかはしる
いまのことば
嘆きながら、ひとりで寝る夜が明けるまでの時間が
どれほど長いものか——
あなたには、お分かりになるでしょうか。
ことばの景色
『拾遺和歌集』の前書きが場面を教えてくれます——夫が訪ねてきたとき、門を開けるのが遅かったので、「立ちくたびれた」と言ってきた。それに返したのが、この一首です。「あなたは門の前で少し待っただけでしょう」——言葉には出していません。
けれど「いかに久しき ものとかは知る」の問いかけが、静かに刺さります。一晩と少しの時間、どちらが長いか。時間の長さは、時計ではなく立場で決まる——そう言い切った歌です。
作者の右大将道綱母は、『蜻蛉日記』の作者です。自分の結婚生活を記録した日記文学の先駆けで、この歌も『蜻蛉日記』の中の出来事とつながっています。
考えてみよう
- 問一同じ時間が長く感じるとき・短く感じるときを挙げてみましょう。
- 問二責めずに問いかける言い方を、一行作ってみましょう。
- 問三日記を三日書いて、同じ一日でも書き方が変わるか試してみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——『蜻蛉日記』は、女性が自分の生活をかなで書いた最初期の作品のひとつ。のちの『枕草子』『源氏物語』へつながる道の入口にあります。百人一首は、日本の散文の歴史とも重なっています。