九十
百 人 一 首 ・ 九 十 番 殷富門院大輔
見せばやな 雄島のあまの 袖だにも
濡れにぞ濡れし 色はかはらずみせばやな をじまのあまの そでだにも
ぬれにぞぬれし いろはかはらず
いまのことば
お見せしたいものです。
雄島の漁師の袖でさえ、
濡れに濡れても色は変わらないのに——(私の袖は血の涙で色が変わってしまった)。
ことばの景色
最後の一つを言わずに終える——その作りがこの歌の力です。「色はかはらず」で止めているので、では自分の袖はどうなのか——と読む人が考える。答えを書かないほうが、強く届くことがあります。
この歌は本歌取りの例としても知られます。「雄島のあまの袖だにも」という先行の歌を踏まえて、元の歌を知る人には二重に響くように作ってある。八十三番俊成が重んじた技法です。
雄島は陸奥国・松島の島。十四番のしのぶもぢずり、四十二番の末の松山——陸奥は、都の歌人にとって特別な土地でした。作者の殷富門院大輔は女房三十六歌仙のひとりです。
考えてみよう
- 問一最後を言わずに終わる文を、一つ作ってみましょう。
- 問二有名な言葉をもじって新しい文を作る練習をしてみましょう。
- 問三百人一首に出てくる陸奥の地名を集めてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——本歌取りは、古い歌を下敷きにして新しい歌を作る技法。盗作ではなく、元の歌を知っている前提で楽しむ約束事です。いまの音楽のサンプリングに似ています。