十七
百 人 一 首 ・ 十 七 番 在 原 業 平 朝 臣
ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川
から紅に 水くくるとはちはやぶる かみよもきかず たつたがは
からくれなゐに みづくくるとは
いまのことば
不思議なことが起きていた神々の時代にさえ、聞いたことがない。
龍田川が、紅葉で真っ赤な絞り染めになるなんて。
ことばの景色
川一面に紅葉が流れて、水が真っ赤に染まっている。その景色を「神様の時代にもなかった奇跡だ」と言い切る——ほめ方の振り切れた歌です。
「水くくる」の「くくる」は絞り染めのこと。川を布に、紅葉を染料に見立てました。目の前の景色を、知っている一番美しいものにたとえる。比喩の力の見本です。
詠んだ在原業平は、物語のモデルになるほどの伝説の美男子。かるた取りでも「ちはやぶる」は人気の札で、この歌を題名にした漫画で知った人も多いはずです。
考えてみよう
- 問一紅葉の川を「絞り染め」と見た業平。あなたなら何にたとえますか。
- 問二「大げさなほめ方」が嫌味にならないのは、どんなときでしょう。
- 問三「ちはやぶる」は「神」にかかる枕詞(まくらことば)。意味より音の飾り——なぜそんな言葉があるのだと思いますか。
答えはひとつではありません。声に出して読んでから考えると、また違って見えてきます。
豆知識——龍田川は奈良県の紅葉の名所で、いまも秋には歌の景色が見られます。落語「千早振る」は、この歌の意味をでたらめに解説するご隠居の噺——江戸の庶民がこの歌を全員知っていたからこそ、成立した笑いです。