二十七
東 海 道 ・ 鳴 海 宿
糸のくくり方だけで模様が変わる。その種類の多さで、いまも世界の先頭にいる染め物です。
いまのことば
鳴海は東海道の四十番目の宿場。
広重が題に選んだのは「名物有松絞」。
糸のくくり方が、模様になる
有松・鳴海絞りは、木綿の布を藍で染めるのが代表的です。染める前に、糸で布をくくる。くくったところには色が入らないので、そこが模様になる。だから「くくり染め」とも呼ばれます。描くのではなく、色を入れない場所を作る。引き算で絵をかく技術です。
くくり方を変えれば模様が変わります。その技法は最盛期に百種類以上、いま伝わっているものだけでも七十種類。この豊かさは世界でも類がないとされ、海外で「SHIBORI」といえば有松を指します。一九七五年には愛知県で初めて国の伝統的工芸品に指定されました。
なぜ街道の宿でこれが育ったのか。旅人が土産に買ったからです。軽くて、持ち運びやすくて、他では手に入らない。尾張藩が特産品として保護したこともあり、街道随一の名産品になりました。北斎も広重も、その様子を浮世絵に描いています。道が産業を運ぶ——宿場のもうひとつの顔です。
そして思い出してほしいのが、国語の間で読んだ十四番「陸奥のしのぶもぢずり」。あれも乱れ模様の染め物でした。千年前の歌に詠まれた染めの技が、江戸の街道で商品になり、いまも続いています。
考えてみよう
- 問一色を入れない場所で絵をかく方法を、紙と絵の具で試してみましょう。
- 問二輪ゴムと布で、自分だけの模様を作ってみましょう(色は食紅でも)。
- 問三土産に選ばれる品物には、どんな条件があるでしょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——有松は、一六〇八年(慶長十三年)に東海道の整備にあわせてひらかれた集落で、いまも名古屋市緑区に古い町並みが残っています。伝統工芸でありながら、新しい技法を開発し続けてきた珍しい例とされます。守るだけでなく、増やしてきた技です。