五十
百 人 一 首 ・ 五 十 番 藤原義孝
君がため 惜しからざりし 命さへ
長くもがなと 思ひけるかなきみがため をしからざりし いのちさへ
ながくもがなと おもひけるかな
いまのことば
あなたのためなら惜しくないと思っていた命でさえ、
いまは
長くあってほしいと思うようになりました。
ことばの景色
「死んでもいい」から「長く生きたい」へ——気持ちが裏返る瞬間を書いた歌です。前は会いたい一心で命など考えなかった。けれど会えたいま、時間が惜しくなった。
四十三番と並べてみてください。あちらは「逢ったあとのほうが苦しい」、こちらは「逢ったあとのほうが命が惜しい」。同じ出来事から、苦しさと欲が別々に取り出されている。
作者の藤原義孝は、四十五番謙徳公=藤原伊尹の子。中古三十六歌仙のひとりです。そしてその子が、三蹟のひとりに数えられる書の名手・藤原行成。親・子・孫と名が続いた家です。
考えてみよう
- 問一「これがあれば他はいらない」と思ったものが、後で変わった経験はありますか。
- 問二時間が惜しいと感じるのは、どんなときでしょう。
- 問三四十三番と読み比べて、違いを一行で書いてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——
三蹟は
平安の
書の
名手三人のこと。
歌の家と書の家が重なっているのが
平安です。
十八番の
藤原敏行も
書の
名手でした。