十八
百 人 一 首 ・ 十 八 番 藤原敏行朝臣
住の江の 岸に寄る浪 よるさへや
夢の通ひ路 人目よくらむすみのえの きしによるなみ よるさへや
ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ
いまのことば
住の江の岸に寄せる波の「よる」ではないけれど、
夜でさえも——
あなたは夢の通い道で、人目を避けているのでしょうか。
ことばの景色
「よる」がふたつ働いています。波が岸に寄る、そして夜。波は寄せてはかえし、寄せてはかえす。その繰り返しが、そのまま「夜がくるたびに」の繰り返しに重なります。音のくり返しで、時間のくり返しを表したのです。
「夢の通ひ路」——平安の人は、夢は相手が訪ねてくる道だと考えました。その道でさえ人目を気にしている、というのがこの歌の嘆きです。十二番の「雲のかよひぢ」と読み比べてみてください。空の通い路と、夢の通い路。百人一首には、目に見えない道が二本通っています。
『古今和歌集』の前書きは「寛平御時きさいの宮の歌合のうた」。歌合に出すために詠まれた歌です。歌合は、左右に分かれて歌を出し合い勝ち負けを決める催し。つまりこれは、実際の恋の手紙ではなくお題にこたえて作った作品——それでも千年残るのですから、腕の見せどころだったわけです。
作者の藤原敏行は三十六歌仙のひとりで、書の名手としても知られました。ことばの形と、文字の形。どちらも整える人だったのです。
考えてみよう
- 問一同じ音で違う意味のことばを二つ集めて、短い文を作ってみましょう。
- 問二夢に出てきた人のことを、あなたはどう受け取りますか。
- 問三勝ち負けのある催しで作品を作るとき、ふだんと何が変わるでしょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——
住の江は、いまの大阪市
住吉区あたりの
海辺を
指したとされます。この
先の
十九番・
二十番も
難波の歌。
百人一首の十八番から二十番までは、大阪湾ぞいの三首が並びます。藤原定家の
並べ方を
地図で
追うのも、楽しみ方のひとつです。