四十三
百 人 一 首 ・ 四 十 三 番 権中納言敦忠
逢ひみての 後の心に くらぶれば
昔はものを 思はざりけりあひみての のちのこころに くらぶれば
むかしはものを おもはざりけり
いまのことば
逢って結ばれたあとの、この心に比べれば、
昔の私は
何も思い悩んでいなかったのだ。
ことばの景色
会う前より、会ったあとのほうが苦しい——そういう順番の逆転を言い当てた一首です。知らなければ、失うこともない。手に入れてはじめて、本当の重さが分かる。
ことばの組み立ては、とてもすっきりしています。むずかしい掛詞も序詞もありません。「比べれば」の一語だけで、前と後を並べた。技巧を使わないことが技巧になる、という例です。
作者の藤原敦忠は三十六歌仙のひとりで、左大臣・藤原時平の三男。権中納言まで進みました。百人一首では、官職名で呼ばれる歌人が多い——「権中納言敦忠」もその一人です。
考えてみよう
- 問一知る前と知ったあとで、見方が変わったことはありますか。
- 問二難しいことばを使わずに気持ちを書く練習をしてみましょう。
- 問三「前」と「後」を比べる形で、短い文を作ってみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——父の藤原時平は、菅原道真と政治を争った人として知られます。百人一首を開くと、歴史の教科書に出てくる名前の子や孫に、次々と出会います。