五十一
百 人 一 首 ・ 五 十 一 番 藤原実方朝臣
かくとだに えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな もゆる思ひをかくとだに えやはいぶきの さしもぐさ
さしもしらじな もゆるおもひを
いまのことば
「こんなに思っています」とさえ、言えないのですから——
伊吹山のさしも草ではないが、
さしも(それほど)とは知らないでしょうね、この燃える思いを。
ことばの景色
ことば遊びが三重にかかった難しい一首です。「えやは言ふ」(言えようか、いや言えない)に「伊吹」が重なり、「さしも草」に「さしも(それほど)」が重なる。言えない気持ちを、言えないまま形にしたのです。
「さしも草」はヨモギのこと。干して「もぐさ」にし、お灸に使います。だから「もゆる思ひ」——燃える、につながる。草の使い道を知らないと、この歌は解けません。和歌が暮らしと地続きだったことが、よく分かります。
作者の藤原実方は中古三十六歌仙のひとりで、左近衛中将を務めました。伊吹山は近江と美濃の境にある山で、もぐさの産地として知られていました。
考えてみよう
- 問一ヨモギを探して、葉の裏がどうなっているか見てみましょう。
- 問二言えない気持ちを、遠回しに伝える言い方を考えてみましょう。
- 問三身近な植物の使い道を三つ調べてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——
ヨモギは草餅にもなります。
料理の間の
目で
見れば
食べ
物、
生物の間の
目で
見れば
薬草、
国語の
間の
目で
見れば
恋のことば。
同じ草が、間によって違う顔を見せます。