二十九
百 人 一 首 ・ 二 十 九 番 凡河内躬恒
心あてに 折らばや折らむ 初霜の
置きまどはせる 白菊の花こころあてに をらばやをらむ はつしもの
おきまどはせる しらぎくのはな
いまのことば
あて推量で折るなら、折ってみようか。
初霜が降りて見分けがつかなくなった、
白菊の花を。
ことばの景色
白い霜と、白い菊。どちらも白いから見分けがつかない、というのがこの歌の設定です。ほんとうに見分けがつかないかというと——たぶん、つきます。だからこれは誇張であり、誇張を楽しむ遊びなのです。
「置きまどはせる」の「置く」は霜が降りることを表す言い方。霜が自分を迷わせている——自然の側に意志があるように書いています。十二番で風に命令した歌がありました。平安の歌は、自然を相手として扱います。
『古今和歌集』の前書きは「しらぎくの花をよめる」。お題は「白菊」——宗于の「冬」と同じで、題は一言です。その一言から何を引き出すか。躬恒が引き出したのは「白すぎて分からない」でした。
作者の凡河内躬恒は、『古今和歌集』そのものを編んだ四人のうちの一人です(紀友則・紀貫之・躬恒・壬生忠岑)。次の三十番も、その四人のうちの一人。百人一首の二十九番と三十番には、歌集を作った人たちが並んで座っています。
考えてみよう
- 問一白いものを三つ並べて、見分けのつく順に並べてみましょう。
- 問二初霜の朝に外へ出て、霜がどこに降りているか探してみましょう。
- 問三わざと大げさに言うと面白くなる言い方を、ひとつ作ってみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——
菊は
平安の
庭の
花で、
霜が
降りるころまで
咲き
続けます。
秋の七十二候の
終わりから
冬の候にかかる
時期。
暦と花と歌は、同じ日を指しています。