二十一
百 人 一 首 ・ 二 十 一 番 素性法師
今来むと いひしばかりに 長月の
有明の月を 待ち出でつるかないまこむと いひしばかりに ながつきの
ありあけのつきを まちいでつるかな
いまのことば
「今すぐ行く」——あなたがそう言ったばかりに、
長月(九月)の夜を待ちとおして、
とうとう有明の月が出るのを、迎えてしまいました。
ことばの景色
この歌の急所は「ばかりに」の四文字です。「今行く」という軽い一言。それだけを頼りに、一晩待ち続けてしまった。相手を責めることばは、ひとつも入っていません。それでも気持ちは全部伝わる——和歌の腕の見せどころです。
「有明の月」は、夜が明けても空に残っている月のこと。長月は旧暦の九月で、一年でいちばん夜が長くなっていくころ。「長い」という字が入った月の、その長い夜を最後まで待った——暦の名前まで働いています。
作者の素性法師は、十二番僧正遍昭の子です。父は出家する前に「天女をとどめたい」と詠み、子は「夜明けまで待った」と詠んだ。親子そろって、時間を題材にした歌で残っています。
十三番と二十番が父子、十二番と二十一番も父子。百人一首には、親子で入っている歌人が何組もいます。探してみると、百枚の札が家系図にも見えてきます。
考えてみよう
- 問一「すぐ行く」と言われて待った経験を、相手を責めずに書いてみましょう。
- 問二夜明け前の空に月が残っているのを、実際に見つけてみましょう。
- 問三百人一首の百人から、親子・兄弟の組を探してみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。