八
故 事 成 語 ・ 八
逃げ場をなくして戦う。ただし、これは追い詰められた末の布陣ではありませんでした。『史記』より
いまのことば
あとがない覚悟で事にあたること。
もとは、兵力差をひっくり返すために考え抜かれた作戦だった。
ことばの景色
韓信の軍は三万ほど、趙の軍は二十万と号する大軍でした。しかも韓信の兵は新兵が多い。そこで韓信は、わざと川を背にして布陣しました。兵法ではしてはいけない配置です。
狙いは、相手に「兵法を知らない小勢だ」と思わせることでした。趙軍は城を空にして総攻撃に出る。そのすきに別動隊が空の城を取った——いまでは「必死の覚悟」の意味で使いますが、もとは「相手に油断させる仕掛け」だったのです。
ことばの意味は、時代とともにずれていきます。杞憂も朝三暮四も、もとの話を知ると印象が変わります。故事成語を物語ごと覚える値打ちは、ここにあります。
考えてみよう
- 問一逃げ場をなくすと、人の力は変わると思いますか。
- 問二わざと弱く見せる作戦の例を、ほかに考えてみましょう。
- 問三意味が変わったことばを、身のまわりから探してみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——背水の陣は、その後の歴史で真似た将軍の多くが敗れています。韓信が勝てたのは、別動隊という仕掛けがあったから。形だけ真似てもうまくいかない、という話でもあります。