七
故 事 成 語 ・ 七
囲まれた陣の外から、味方の国の歌が聞こえてくる。『史記』より
いまのことば
周りが敵ばかりで、味方が誰もいないこと。
その語源は、負けかけた将軍が夜に聞いた歌声だった。
ことばの景色
紀元前二〇二年、項羽の軍は垓下で劉邦の軍に幾重にも囲まれました。その夜、項羽は四方の敵陣から故郷・楚の歌が聞こえてくるのを聞きます。「漢はもう楚を取ったのか。敵の中に楚の人間のなんと多いことか」——項羽は驚き嘆きました。
この話のこわさは、武器ではなく歌で心を折ったところにあります。囲まれているのは目で見れば分かる。けれど「故郷の人たちまで向こうにいる」と思わせたのは、耳から入った情報でした。
いまも「会議で四面楚歌だった」のように使います。二千年前の一晩が、四文字になって残った。出典は『史記』——司馬遷が書いた中国の歴史書です。
考えてみよう
- 問一周りが全部敵に見えたとき、まず何を確かめますか。
- 問二音や歌が気持ちを動かした経験を書いてみましょう。
- 問三「四面」=四つの面。ほかに方角を使った言葉を集めてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——『
史記』は
完璧や
背水の陣の
出典でもあります。
一冊の歴史書から、いくつもの日本語が生まれました。