九十四
百 人 一 首 ・ 九 十 四 番 参議雅経
みよし野の 山の秋風 小夜更けて
故郷寒く 衣うつなりみよしのの やまのあきかぜ さよふけて
ふるさとさむく ころもうつなり
いまのことば
吉野の山に秋風が吹き、夜が更けてゆく。
古い都は寒く——
どこかで衣を打つ音が聞こえてくる。
ことばの景色
「衣うつ」は砧の音。布を木の台にのせて槌で打ち、つやを出したり柔らかくしたりする作業です。秋の夜に響く生活の音として、漢詩から受け継がれた題材) 。
この歌は音だけでできているといってもよい。秋風の音、そして砧の音。目に見えるものは、ほとんど書かれていません。それでも寒さと寂しさが伝わってきます。
作者の飛鳥井雅経は『新古今和歌集』の撰者の一人。九十七番藤原定家とともに選ぶ仕事をしました。蹴鞠の家としても知られる飛鳥井家の祖) にあたります。
考えてみよう
- 問一音だけで風景を書く文を、三行作ってみましょう。
- 問二三十一番も吉野の歌でした。読み比べてみましょう。
- 問三生活の音を五つ書き出してみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——砧の音は、秋の夜の代表的な音として和歌によく出てきます。いまは聞くことのない音ですが、洗濯と仕上げの道具の音だったと知ると、千年前の夜が少し近づきます。