九十三
百 人 一 首 ・ 九 十 三 番 鎌倉右大臣
世の中は 常にもがもな 渚こぐ
海士の小舟の 綱手かなしもよのなかは つねにもがもな なぎさこぐ
あまのをぶねの つなでかなしも
いまのことば
世の中は、いつまでもこのままであってほしい。
渚を漕いでゆく漁師の小舟が、
綱で引かれてゆく——その光景の、なんとしみじみと心にしみることか。
ことばの景色
百人一首で唯一、鎌倉幕府の将軍が詠んだ歌です。作者の源実朝は源頼朝の子で、鎌倉幕府の第三代将軍。百人一首では「鎌倉右大臣」と呼ばれています。
「もがもな」は「〜であってほしい」という願い。将軍という立場の人が「このままでいてほしい」と願った。動き続ける時代の真ん中にいた人の願いだと読むと、下の句の小舟がいっそう小さく見えます。
「綱手」は岸から綱で舟を引くこと。自分の力ではなく、引かれて進む。四十六番の「楫をたえ」の舟とあわせて読むと、舟の使われ方がよく分かります。
考えてみよう
- 問一「このままであってほしい」と思うものを、三つ書いてみましょう。
- 問二舟を進める方法を、四つ挙げてみましょう。
- 問三四十六番と読み比べて、二つの舟を並べてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——実朝の歌集『金槐和歌集』は、後世高く評価されました。政治の世界の人でありながら、歌に打ち込んだ。百人一首の終わり近くは、武士の時代に入っています。