「同時にこなせる=有能」は本当か
たくさんの作業を同時に回せる人は、仕事ができる人——そんなイメージが広くあります。たしかにテキパキ動く姿は頼もしく見えます。けれども、「同時にやっている感覚」と「実際にはかどっている量」は、必ずしも一致しないと言われています。
むしろ、同時並行を得意だと感じている人ほど、一つひとつの作業の精度が下がりやすいという指摘もあります。「できている気がする」と「できている」は、分けて考えてみる価値がありそうです。
脳は「同時並行」より「高速の切り替え」
私たちは複数のことを同時にやっているつもりでも、注意を要する作業については、脳は本当は並行処理をしておらず、対象を高速で切り替えているだけだと考えられています。これはタスクスイッチング(注意の切り替え)と呼ばれます。
音楽を聴きながら歩くように、片方が自動化された動作なら同時にこなせます。けれど、文章を書く・問題を解くといった「考える作業」が二つ重なると、脳は両方を一度に処理できず、すばやく行き来しているにすぎない、というわけです。
切り替えには見えないコストがかかる
この切り替えには、毎回ちいさな立ち上げ直しが必要です。これをスイッチングコストと呼びます。作業Aから作業Bに移るたびに、脳が「今は何をするんだっけ」と態勢を整え直すため、合計の時間が増えたり、ミスが起きやすくなったりすると言われています。
一回ごとのロスはわずかでも、行き来の回数が積み重なると、結果として「一つずつやったほうが速かった」となりがちです。同時並行は、見た目ほど時間の節約になっていない場合があるのです。
スマホの通知が、集中の糸を切る
切り替えの引き金として大きいのが、スマートフォンの通知です。ポンと鳴った瞬間に注意がそちらへ移り、たとえすぐ画面に触れなくても、いったん途切れた集中を元の作業へ戻すには思いのほか時間がかかると言われています。
- 「ちょっと見るだけ」のつもりが、関連の通知を次々とたどってしまう
- 戻ってきても、どこまで進めていたか思い出すところからやり直しになる
- 通知が来るかもしれないという待ち構えだけで、集中が浅くなることもある
結局、シングルタスクのほうが速く正確
ここまでをまとめると、考える作業については、一つずつ片づけるシングルタスクのほうが、速く正確に終わることが多いと考えられます。同時並行で「がんばっている感」を得るより、一点に集中して短時間で仕上げ、次へ移るほうが、トータルでは楽なのです。
もちろん、すべてを一つずつにするのは現実的ではありません。大切なのは、「考える作業」と「ながらでも済む作業」を分けて扱うという視点です。
🧒 子どもの学びに、どう活かす?
スマホやテレビを見ながらの宿題は、脳の仕組みから見ると非効率になりがちです。注意があちこちに切り替わり、同じ問題に何度も戻ることになります。「ながらでも大丈夫」は、たいてい本人がそう感じているだけ。まずは大人が、食事中や作業中に通知を切ってみる。一つのことに向き合う姿を見せることが、子どもにとっていちばんの手本になります。
今日から試せる、3つのこと
- 集中したい時間は、スマホの通知をオフにするか、別の部屋に置く
- 「考える作業」は一つ終えてから次へ。同時に二つ抱えない
- メール返信や片づけなど軽い用事は時間を決めてまとめて処理する
同時にたくさんやることが、いつも得とはかぎりません。一つに集中して、ていねいに終える。その積み重ねのほうが、結果として早く、ミスも少なくなる——がんばりすぎない学びの、ひとつの工夫です。
ご利用にあたって
本記事は一般的な情報の紹介であり、診断・治療を目的としたものではありません。集中力や作業の進み方には個人差があり、特定の効果を保証するものではありません。集中の困難や心身の不調が続く場合は、自己判断せず医師など専門家にご相談ください。