二十七
百 人 一 首 ・ 二 十 七 番 中納言兼輔
みかの原 わきて流るる 泉川
いつみきとてか 戀しかるらむみかのはら わきてながるる いづみがは
いつみきとてか こひしかるらむ
いまのことば
みかの原を分けて流れる泉川——
いつ見たというので、
こんなに恋しく思うのだろう。
ことばの景色
この歌には掛詞が二か所あります。「わきて」は「湧きて(水が湧き出て)」と「分きて(野を分けて)」。「いづみ」は泉川の「泉」と「いつ見」。上の三句は風景、下の二句は心。その二つを、音だけでつないでいます。
主題は、ほとんど会ったことのない人を恋しく思うという不思議です。「いつ見たというのか」——自分でも説明がつかない。噂や手紙だけで心が動いてしまう。千年前も同じだったのです。
「みかの原」は京都府木津川市の瓶原。「泉川」は木津川の古い呼び名です。そしてこの野には歴史があります——奈良時代、ここに恭仁京という都が置かれました。宮の跡は国の特別史跡です。歌に詠まれた野原は、かつて日本の首都でした。
作者の藤原兼輔は賀茂川の堤に邸があったので「堤中納言」と号しました。三十六歌仙のひとり。川のそばに住んだ人が、川の歌で残った——そう読むと、この一首がすこし近づきます。
考えてみよう
- 問一まだ会っていないのに気になる、という経験はありますか。
- 問二あなたの近くの川の古い呼び名を調べてみましょう。
- 問三風景と気持ちを音でつなぐ短い文を、ひとつ作ってみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——木津川の「木津」は、奈良時代に平城京などの都を造るための木材を陸揚げした港に由来します。恋の歌の川は、都を建てた材木の川でもありました。