三
百 人 一 首 ・ 三 番 柿 本 人 麻 呂
足引きの 山鳥の尾の しだり尾の
ながながし夜を ひとりかもねむあしびきの やまどりのをの しだりをの
ながながしよを ひとりかもねむ
いまのことば
山鳥の長く垂れた尾のように、
長い長い秋の夜を、私はひとりで眠るのだろうか。
ことばの景色
この歌、意味の中心は最後の一行だけです。「長い夜をひとりで眠るのか」。では前半の山鳥は何かというと——「ながながし」を引き出すための、長い長い前置き。これを「序詞(じょことば)」といいます。
言いたいことの前に、たとえの景色をたっぷり広げる。前置きの長さそのものが、夜の長さを体感させる仕掛けです。形式が意味を演じている——三十一文字の高等技術です。
作者は「歌聖」と呼ばれた柿本人麻呂。山鳥は夜になると雄と雌が別々に眠ると信じられていました。だから山鳥は、ひとり寝の象徴なのです。
考えてみよう
- 問一声に出して読むと、前半の「の・の・の」の連なりはどう聞こえますか。
- 問二「長さを感じさせるために長く言う」——同じ工夫を、話し方や音楽で探せますか。
- 問三秋の夜長、あなたなら何をして過ごしますか。
答えはひとつではありません。声に出して、外に出て、確かめながらどうぞ。
豆知識——柿本人麻呂は飛鳥時代の宮廷歌人で、『万葉集』の中心人物。「歌聖」として、後世の歌人たちの神様のような存在でした。百人一首の一〜七番は、飛鳥・奈良の古い時代の歌が並びます。