九
百 人 一 首 ・ 九 番 小 野 小 町
花の色は 移りにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまにはなのいろは うつりにけりな いたづらに
わがみよにふる ながめせしまに
いまのことば
桜の花の色は、あせてしまった。長雨の降るあいだに。
——そして私の盛りも、もの思いにふけるあいだに、過ぎてしまった。
ことばの景色
この歌には、二重の意味が仕掛けられています。「ふる」は雨が降ると、歳月を経る。「ながめ」は長雨と、もの思いの眺め。ひとつの音に二つの意味を重ねる「掛詞(かけことば)」の最高傑作です。
表の意味は、雨で桜が色あせた、という景色。裏の意味は、考えごとをしているうちに自分の若さも過ぎてしまった、という嘆き。三十一文字で、風景と人生を同時に詠む——言葉の圧縮技術の極みです。
作者の小野小町は、絶世の美女と伝えられる伝説の歌人。美しさの盛りを知る人が詠むからこそ、この歌は深く響きます。
考えてみよう
- 問一「ふる」「ながめ」の二重の意味を、自分の言葉で説明してみましょう。
- 問二ひとつの言葉に二つの意味を持たせる遊びを、ほかに知っていますか(だじゃれも仲間です)。
- 問三「気づいたら時間が過ぎていた」——あなたにも、そんな時間はありますか。
答えはひとつではありません。声に出して読んでから考えると、また違って見えてきます。
豆知識——小野小町の実像はほとんど分かっておらず、それがかえって伝説を育てました。「小町」は今も美人の代名詞(○○小町)として使われます。歌が一人の人物を千年のブランドにした例です。