七
百 人 一 首 ・ 七 番 安 倍 仲 麿
天の原 ふりさけ見れば 春日なる
三笠の山に 出でし月かもあまのはら ふりさけみれば かすがなる
みかさのやまに いでしつきかも
いまのことば
大空をはるかに見上げれば、月が出ている。
あの月は、ふるさと奈良の三笠山に昇っていた、あの同じ月なのだなあ。
ことばの景色
詠んだ場所は、日本ではありません。唐(中国)です。安倍仲麿は遣唐使として海を渡り、皇帝に仕えるほど出世しましたが、帰国の船は難破し、ついに日本の土を踏めませんでした。
異国の空の月を見上げて、ふるさとの山の月を思う——月だけが、離れた場所をつないでくれる。海外で暮らす人が千年後のいまも、この歌に自分を重ねます。
単身赴任のお父さん、留学中の先輩、遠くに住むおばあちゃん。同じ月を見ている、と思うだけで距離が縮む——その発明を、この歌がしました。
考えてみよう
- 問一離れて暮らす人と「同じものを見ている」と感じた経験はありますか。
- 問二ビデオ通話がある時代に、この歌の気持ちは古くなったでしょうか。
- 問三今夜の月を見て、誰かを思い浮かべてみましょう。
答えはひとつではありません。声に出して読んでから考えると、また違って見えてきます。
豆知識——安倍仲麿は8世紀の人。李白や王維といった唐の大詩人たちと交流があったと伝わります。歌は帰国がかなわぬまま唐で生涯を終えた仲麿の、望郷の代表歌として愛されてきました。