三十六
実 語 教 ・ 第 三十六 句
たっとしと いえども いやしきを わするること なかれ貴しと雖も賎しきを忘るること勿れ
あるいは さきに たっとく のちに いやし或いは先に貴く後に賎し
原文 雖貴勿忘賎 或先貴後賎
いまのことば
高い立場にあるときも、低かったころを忘れてはいけない。
先に高くとも、後に低くなることがあるのだから。
きょうの暮らしでいうと
前の句が「お金」なら、この句は「立場」の話です。キャプテン、委員長、先輩——人はいろいろな「上」に立ちます。
上に立ったとき、下にいたころの気持ちを忘れると、人はいばり始めます。そして、いばった人が立場を失ったとき、まわりにはだれも残っていません。下にいたころを覚えている人だけが、上にいても慕われ、下りても支えられます。
立場は貸しものです。いつか返す日が来る。返したあとに何が残るかは、上にいたときのふるまいで決まります。
考えてみよう
- 問一初心者だったころの気持ちを、いまも覚えていますか。
- 問二「いばる先輩」と「慕われる先輩」。分かれ目はどこにあるでしょう。
- 問三いつか立場を「返す」日に、何が残る自分でいたいですか。
答えはひとつではありません。おうちの人と話しながら考えるのも、よい学び方です。
豆知識——「実(みの)るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」——実力がつくほど謙虚になる人を、実った稲にたとえたことわざです。この句とまったく同じ心を、日本人は田んぼの風景でも語ってきました。