三十五
実 語 教 ・ 第 三十五 句
とむと いえども まずしきを わするること なかれ富むと雖も貧しきを忘るること勿れ
あるいは はじめに とみ ついに まずし或いは始めに富み終わりに貧し
原文 雖富勿忘貧 或始富終貧
いまのことば
豊かなときも、貧しさを忘れてはいけない。
初めは豊かでも、終わりに貧しくなることがあるのだから。
きょうの暮らしでいうと
実語教は終盤に入り、うまくいっているときの心がまえを説きます。
調子がいいとき、人はそれがずっと続くと思ってしまいます。テストで良い点が続くと、勉強しなくても大丈夫な気がしてくる。おこづかいがあるうちは、なくなる日のことを考えない。豊かさの中でこそ、豊かでなかったときを覚えておけ——それがこの句の戒めです。
忘れないでいる人は、いばらず、そなえ、感謝を失いません。つまりこの句は、続く豊かさの条件を言っているのです。
考えてみよう
- 問一「調子がいいときほど油断する」——心当たりはありますか。
- 問二うまくいっているとき、何を覚えておくと足もとが安定するでしょう。
- 問三「初めに富み終わりに貧し」とならなかった人は、何が違ったのだと思いますか。
答えはひとつではありません。おうちの人と話しながら考えるのも、よい学び方です。
豆知識——江戸の商家には「売り家と唐様で書く三代目」という川柳がありました。初代が築いた身代を、苦労を知らない三代目が失う、という意味。この句の教えは、江戸の町人のあいだで実話として生きていました。