第二十章
童 子 教 ・ 第二十章 無常のことわり
じゅみょうは ふゆうの ごとし あしたに しょうじ ゆうべに しす寿命は蜉蝣の如し、朝に生じ夕に死す
原文 寿命如蜉蝣 朝生夕死矣
この章の本文(第133対句〜第150対句)
- 所望悉成就 生死命無常望む所悉(ことごと)く成就す 生死(せうじ)の命は無常なり
- 早可欣涅槃 煩悩身不浄早く涅槃(ねはん)を欣(よろこ)ぶべし 煩悩の身は不浄なり
- 速可求菩提 厭可厭娑婆速(すみやか)に菩提を求むべし 厭(いと)ふても厭ふべきは娑婆なり
- 会者定離苦 恐可恐六道会者定離(ゑしやぢやうり)の苦しみ 恐れても恐るべきは六道(ろくどう)なり
- 生者必滅悲 寿命如蜉蝣生者必滅(しやうじやひつめつ)の悲しみ 寿命は蜉蝣(ふゆう)の如し
- 朝生夕死矣 身体如芭蕉朝(あした)に生じ夕(ゆふべ)に死す 身体芭蕉の如し
- 随風易壊矣 綾羅錦繍者風に随つて壊(やぶ)れ易く 綾羅錦繍(りやうらきんしう)は
- 全非冥途貯 黄金珠玉者全く冥途の貯へに非(あら)ず 黄金珠玉は
- 只一世財宝 栄花栄耀者只一世(いつせ)の財宝 栄花栄耀は
- 更非仏道資 官位寵職者更に仏道の資(たす)けに非(あら)ずば 官位寵職は
- 唯現世名聞 致亀鶴之契唯(ただ)現世の名聞(みやうもん) 亀鶴の契りを致し
- 露命不消程 重鴛鴦之衾露命消えざる程 鴛鴦(ゑんわう)の衾(ふすま)を重ぬるも
- 身体不壊間 忉利摩尼殿身体壊(やぶ)れざる間(あいだ) 忉利摩尼殿(とうりまにでん)も
- 歎遷化無常 大梵高台閣遷化(せんげ)無常を歎く 大梵高台の閣も
- 悲火血刀苦 須達之十徳火血刀の苦しみを悲しみ 須達(しゆだつ)の十徳も
- 無留於無常 阿育之七宝無常を留(とど)むること無し 阿育の七宝も
- 無買於寿命 月支還月威寿命を買ふこと無し 月支(ぐはつし)が月を還(かへ)せし威も
- 被縛琰王使 龍帝投龍力琰王(ゑんわう)の使ひに縛(しば)られ 龍帝龍を投げる力も
いまのことば
命は、朝生まれて夕方には終わるかげろうのようにはかない。
着飾るものも、お金も、地位も、あの世まで持ってはいけない。
きょうの暮らしでいうと
童子教の終盤は、トーンが変わります。会う者は必ず別れ、生きる者は必ず終わる。美しい着物も黄金も官位も「冥途の貯へ」にはならない——実語教三句「富は一生の財」を、命の視点からもう一度深く言い直します。
子どもの教科書に、ここまで正面から「限り」を書くのかと驚くかもしれません。でも、限りがあると知っている人だけが、今日を大切にできる。はかなさの自覚は、暗さではなく、今日への集中を生むのです。
体は芭蕉の葉のように破れやすく、命はかげろうのよう。だからこそ、消えないもの——学んだ智、行った善、人に残した恩——に時間を使え。全編の教えが、ここでひとつに束ねられます。
考えてみよう
- 問一「限りがある」と意識すると、今日の過ごし方はどう変わりますか。
- 問二残していけるもの・いけないものを、分けて書き出してみましょう。
- 問三はかなさを知ることは、暗いことでしょうか、明るいことでしょうか。
答えはひとつではありません。おうちの人と話しながら考えるのも、よい学び方です。
豆知識——「会者定離」「生者必滅」は、平家物語の「祇園精舎の鐘の声」と同じ無常観の言葉です。かげろう(蜉蝣)は実際に成虫の命が一日ほどしかない昆虫。たとえではなく、本当に朝生じて夕に死ぬ生きものです。