第十九章
童 子 教 ・ 第十九章 孝行の人々の物語
もうそう ちくちゅうに なきしかば しんせつの うちに たかんなを ぬく孟宗竹中に哭きしかば、深雪の中に笋を抜く
原文 孟宗哭竹中 深雪中抜笋
この章の本文(第119対句〜第132対句)
- 如野鹿損草 酉夢打其父野の鹿の草を損ずるが如し 酉夢(ゆうむ)其の父を打つ
- 天雷裂其身 班婦罵其母天雷其の身を裂く 班婦其の母を罵(ののし)る
- 霊蛇吸其命 郭巨為養母霊蛇其の命を吸ふ 郭巨(くわつきよ)母を養はん為
- 堀穴得金釜 姜詩去自婦穴を堀れば金(こがね)の釜を得たり 姜詩(きやうし)自婦を去つて
- 汲水得庭泉 孟宗哭竹中水を汲めば庭に泉を得たり 孟宗竹中に哭(な)きしかば
- 深雪中抜笋 王祥歎叩氷深雪の中(うち)に笋(たかんな)を抜く 王祥歎いて氷を叩(たた)けば
- 堅凍上踊魚 舜子養盲父堅凍(けんとう)の上に魚踊る 舜子盲父を養ひ
- 涕泣開両眼 刑渠養老母涕泣せしかば両眼の開く 刑渠(けいきよ)老母を養ひ
- 噛食成齢若 董永売一身食を噛めば齢(よはひ)若(わか)を成る 董永(とうゑい)一身を売つて
- 備孝養御器 楊威念独母孝養の御器(みつぎ)に備ふ 楊威独りの母を念(おも)ひ
- 虎前啼免害 顔烏墓負土虎の前に啼(な)きしかば害を免(まぬが)る 顔烏(がんう)墓に土を負へば
- 烏鳥来運埋 許牧自作墓烏鳥(うてう)来つて運び埋(うづ)む 許牧自(みづか)ら墓を作れば
- 松柏生作墓 此等人者皆松柏生じて墓と作(な)る 此等(これら)の人は皆
- 父母致孝養 仏神垂憐愍父母に孝養を致し 仏神憐愍(れんみん)を垂れ
いまのことば
病の母がたけのこを望んだ真冬、孟宗が竹やぶで泣くと、雪の中からたけのこが生えた。
孝行の心は天さえ動かす——そう信じられてきた物語たち。
きょうの暮らしでいうと
この章は物語集です。真冬にたけのこを掘り当てた孟宗。氷を叩いて魚を得た王祥。親の墓の土を烏たちが運んで手伝った顔烏。中国の「二十四孝」に連なる孝行者の伝説が、次々に語られます。
雪からたけのこは生えません。氷から魚は跳ねません。これは事実の記録ではなく、「それほどの心だった」を伝える物語の言葉です。昔の人も、それを分かって語り継ぎました。
物語の芯だけ取り出せば、こうなります——親を思う心は、不可能に見えることへ人を向かわせる。そしてその姿は、必ず誰かが見ている。孟宗の名は「モウソウチク(孟宗竹)」として、日本の竹やぶに今も生えています。
考えてみよう
- 問一「事実ではないが、真実を伝える物語」を、ほかに知っていますか。
- 問二家族のために「不可能に見えること」へ向かった人の話を、聞いたことがありますか。
- 問三孝行の形は時代で変わります。いまの時代の孝行とは、たとえば何でしょう。
答えはひとつではありません。おうちの人と話しながら考えるのも、よい学び方です。
豆知識——たけのこでおなじみの孟宗竹は、この孝行話の孟宗から名づけられました。教科書の中の人物が里山の風景の名前になっている——童子教が日本の暮らしに残した、いちばん身近な足あとかもしれません。