第十八章
童 子 教 ・ 第十八章 父母の恩は山よりも高く
ちちの おんは やまより たかく ははの とくは うみより ふかし父の恩は山より高く、母の徳は海より深し
原文 父恩者高山 母徳者深海
この章の本文(第105対句〜第118対句)
- 猶如光音天 父恩者高山猶(なを)光音天(くはういんてん)の如し 父の恩は山より高く
- 須弥山猶下 母徳者深海須弥山猶(なを)下(ひく)し 母の徳は海より深く
- 滄溟海還浅 白骨者父淫滄溟海還(かへ)つて浅し 白骨は父の淫
- 赤肉者母淫 赤白二渧和赤肉は母の淫 赤白(しやくびやく)二渧(にたい)和(くわ)して
- 成五体身分 処胎内十月五体身分(しんぶん)と成る 胎内に処(お)ること十月(とつき)
- 身心恒苦労 生胎外数年身心恒(つね)に苦労す 胎外(たいげ)に生じて数年(すねん)
- 蒙父母養育 昼者居父膝父母の養育を蒙(かふむ)る 昼は父の膝に居て
- 蒙摩頂多年 夜者臥母懐摩頂(まてう)に蒙(かふむ)ること多年 夜は母の懐(ふところ)に臥(ふ)して
- 費乳味数斛 朝交于山野乳味を費すこと数斛(すこく) 朝(あした)には山野に交り
- 殺蹄養妻子 暮臨于江海蹄(ひづめ)を殺して妻子を養ひ 暮には江海に臨み
- 漁鱗資身命 為資旦暮命鱗(うろくづ)を漁(すなど)つて身命(しんめい)を資(たす)く 旦暮の命を資けん為なり
- 日夜造悪業 為嗜朝夕味日夜悪業(あくごう)を造る 朝夕のこの味はひを嗜(たしな)まんが為なり
- 多劫堕地獄 戴恩不知恩多劫(たこう)地獄に堕(お)つ 恩を戴(いただ)ひて恩を知らざるは
- 如樹鳥枯枝 蒙徳不思徳樹の鳥の枝を枯らすが如し 徳を蒙(かふむ)つて徳を思はざるは
いまのことば
父の恩は山より高く、母の恩は海より深い。
十月おなかで育て、生まれてからも何年も、身をすり減らして育ててくれた。
きょうの暮らしでいうと
「父母の恩は山より高く海より深し」——日本人が親の恩を語るときの定番の言い回しは、この章から広まりました。
童子教は、その恩を抽象的に言いません。十月の間おなかの中で育て、生まれてからは昼は父の膝、夜は母の懐。飲ませた乳の量まで数え上げる。そして親は、わが子を食べさせるために働き、身も心もすり減らす——恩を「量」で見せるのです。
「恩を戴いて恩を知らざるは、樹の鳥の枝を枯らすが如し」。世話になった木の枝を枯らす鳥になるな。恩を知ることが人であることの条件だと、実語教二十四句と同じ結論に至ります。
考えてみよう
- 問一生まれてから今日までにかけてもらった手間を「量」で想像してみると、どうなりますか。
- 問二「恩を知る」と「恩に縛られる」は違うと思いますか。
- 問三いま、恩に対してできることを、ひとつ挙げるなら?
答えはひとつではありません。おうちの人と話しながら考えるのも、よい学び方です。
豆知識——この章には仏教的な人間観(体の由来や無常観)が色濃く出ています。生命の見方は時代とともに変わりましたが、「親の恩を量で想像してみる」という方法は、いまも心を動かす力を持っています。