推敲
故 事 成 語 ・ 六
「僧は推す月下の門」か、「僧は敲く月下の門」か。
一文字に迷いつづけた詩人は、都の長官の行列に突っ込んでしまった。唐の詩人・賈島の故事より
いまのことば
文章を練り直すことを「推敲」という。
「推す」と「敲く」、どちらの一字にするか迷った詩人の故事から。
ことばの景色
唐の詩人・賈島(かとう)は、ロバに乗りながら自作の詩の一字に没頭していました。門を「推す(おす)」か「敲く(たたく)」か——夢中のあまり、都の長官・韓愈の行列にぶつかってしまいます。
ところが韓愈は怒らず、いっしょに考えて言いました。「敲くがよい」。月夜の静けさの中、トントンという音が響くほうが情景が立つ——名文家の判断でした。ここから、文章を練ることを「推敲」と呼ぶようになります。
たった一字を、行列に突っ込むまで考える。言葉を選ぶことは、それだけ価値のある仕事だと、この故事は教えてくれます。作文の見直しの時間は、賈島の時間です。
考えてみよう
- 問一「推す」と「敲く」、あなたならどちらを選びますか。理由も言葉にしてみましょう。
- 問二自分の作文で「一字だけ変えたら良くなった」経験はありますか。
- 問三書き終えた文章を、どんな順番で見直すとよいでしょう(声に出す? 時間を置く?)。
答えはひとつではありません。おうちの人と話しながら考えるのも、よい学び方です。
豆知識——韓愈は唐宋八大家に数えられる大文章家。身分違いの衝突事故が、文学談義と友情に変わった——推敲という言葉には、ぶつかった相手を許した度量の物語も入っています。