第一章
童 子 教 ・ 第一章 貴人の前のふるまい
それ きじんの まえに いては けんろに たつことを えざれ夫れ貴人の前に居ては、顕露に立つことを得ざれ
原文 夫貴人前居 顕露不得立
この章の本文(第1対句〜第6対句)
- 夫貴人前居 顕露不得立夫(そ)れ貴人の前に居ては 顕露に立つことを得ざれ
- 遇道路跪過 有召事敬承道路に遇ふては過(すぎ)に跪(ひざまづ)いて 召す事有らば敬ふこと承れ
- 両手当胸向 慎不顧左右両の手を胸に当てて向ひ 慎んで左右を顧みざれ
- 不問者不答 有仰者謹聞問はずんば答へざれ 仰せ有らば謹しんで聞け
- 三宝尽三礼 神明致再拝三宝には三礼を尽し 神明には再拝を致し
- 人間成一礼 師君可頂戴人間には一礼を成し 師君には頂戴すべし
いまのことば
目上の人の前では、つっ立ったままでいない。
呼ばれたらつつしんで応じ、聞かれるまでは口をはさまない。
きょうの暮らしでいうと
童子教は、実語教とならんで寺子屋で使われた「ふるまい」の教科書です。実語教が「なぜ学ぶか」を教えたのに対し、童子教は「どう身を処すか」を、場面ごとに具体的に教えます。
冒頭は、目上の人の前でのふるまいから。姿勢、手の置き方、視線、口の開き方——ここまで細かいのは、敬意は心の中だけでは伝わらないと知っていたからです。形にしてはじめて、相手に届きます。
「問はずんば答へざれ」は、黙っていろという意味ではありません。相手の話が終わるまで待つ、という会話の基本です。面接や目上の人へのあいさつで、いまもそのまま通用します。
考えてみよう
- 問一敬意が「形」になってはじめて伝わった経験はありますか。
- 問二目上の人の前でのふるまいで、いまも変わらず大事なことは何でしょう。
- 問三形だけの礼儀と、心のこもった礼儀。見分けはつくものでしょうか。
答えはひとつではありません。おうちの人と話しながら考えるのも、よい学び方です。
豆知識——童子教は鎌倉時代ごろに成立したとされ、作者は不明です(平安の僧・安然に仮託する説もあります)。実語教とセットで一冊にした『実語教童子教』が、江戸の寺子屋の大定番でした。